院長挨拶

新年のご挨拶

都城医療センター院長
吉住秀之


 明けましておめでとうございます。

 新型コロナウイルス感染症が5類感染症に変更となって初めての新年を迎えました2020年に始まった同感染症のパンデミックによる混乱も一段落し、医療機関は感染症対策を維持しつつ新たなフェーズに移行しています。オミクロン株に変異して病原性は当初の株より明らかに弱くなってはいますが、高齢者や免疫の低下した方にとってはいまだに油断ができないウイルスであり、昨冬から増加しているインフルエンザとともに今後も注意していかなければなりません。「勝ちに不思議の勝ちあり」と言われますが、今回の経過も人類がウイルスに勝つべくして勝ったなどというものではなく、ウイルスが重ねた偶然の進化によりいったん収束をみたと理解しておくのが妥当でしょう。

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起きた時、日本人の感染者数が世界的にみると少なかったことから、何か特別な生物学的要因(ファクターX)があるのではないかと議論がされていました。ウイルス感染症に対する免疫について私たちはまだ知らないことの方が多いのだと言ってしまえばそれまでですが、今から振りかえると日本人どうしでは近しい間柄でも距離をとって挨拶をする習慣であり、誰から言われるまでもなくマスクを着用してお互いに配慮していたことが大きな効果を発揮したのではないかと思います。

 社会生活では、「私がマスクを着けずに話すのを相手は嫌がると私が思っていると相手は思っていることを私は知っている」という、文章にするとややこしくなる関係を私たちは一瞬にして理解して、お互いに気遣いをしてマスクをします。こうした相手の視点に立った理解ができる脳の働き(社会脳といいます)は、人間以外の動物にはありません。鋭い牙も爪もなく非力な人類が現在まで生き残ることができたのも、脳が進化して社会脳という機能を獲得したからではないでしょうか。集団が危機に見舞われたときに、自分だけでなく相手のことにも配慮した上で行動を切り替える少しの努力を惜しまないことが集団のほぼ全体に伝わると、結果的に非常に大きな力を発揮することになるのではないでしょうか。自分が主体的に考えることはもちろん大切ですが、相手がどう考えていようが自分の好き勝手にするのが一番というやり方をいつでもどこでも押し通すのは、社会脳という優れた脳の働きをもっている人間の劣化した状態のように思えます。医療現場でも常に相手のことを思い遣るということを今年も大切にしていきたいと思います。

 昨年世界情勢はいまだ出口の見えないウクライナの戦禍に加え、中東でも紛争が勃発し昏迷がさらに深まりました。自分の主義主張だけが正しく、それを容れない相手は殲滅してもかまわないとし分断や亀裂が世界のあちこちで目だった一年だったことに思いを致すと、今年は個々人どうしでの間だけでなく、国どうしでも歩み寄り協力することができるようになる年であることを願ってやみません。


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 

更新日:2024年1月